お気に入りの椅子があります。
清水の舞台から飛び降りる覚悟で意を決して購入した我が家の2大チェア、イームズのラウンジチェア、カリモクのリクライニングチェアは座り心地というか、程よいホールド感が心地よくて、本を読んでるとついつい眠くなってしまうような良い椅子です。これらは名実ともに素晴らしい椅子だと思います。
ですが、我が家にはもう一つ、名前の無いお気に入りの椅子があります。それがこの、スリランカのスツールです。大切なもの、宝物には思い出が不可欠だと思いますが、そのためにはそのものを手に入れたときの思い出だけでなく、今後どのようにそのものと付き合っていくか、それも大事なことです。
大切なものを紹介していくこの[日々の1000]シリーズ。今回はスリランカのスツールを紹介します。
スリランカ一人旅
まずはこの大切なスツールとの出会いから。出会いはスリランカで一人旅をしていた時でした。その時私は既にシンガポールに引っ越してきていましたが、まだ妻はシンガポールに来ていないときです。赴任したばかりは、日本で携わっていた業務と全く違った業務を担当したということもあり、仕事がどうしても忙しくて、お盆休みもまともに取れるかわからない状態でした。ちょうど休みの一週間前くらいに休みの目処がついて、スリランカ行きの飛行機のチケットを取りました。
そんな旅行でしたので、まともにプランも立てられず、会社の隣に座っていた同僚(スリランカ人)にどこに行ったら良いか聞き、スリランカ中を適当にまわりました。スリランカに行ったら何がしたいという目的は特に無く、ただ遺跡などを巡りながらスリランカの雰囲気を知れたらいいなぁなんて思っていたのですが、一箇所、是非とも行きたい場所がありました。それが象の孤児院です。
今までに見たことのある象は、動物園の檻(柵?)の中で一定の動きを繰り返すような象ばかりです。ですが象の孤児院では、飼育されているというよりも、野生に近く、象が伸び伸びと生活している感じが印象的でした。考えてみれば普通の事なのですが、2匹の象がじゃれているというのに衝撃を受けました。
この思い出を何か残して帰りたいなぁと言っても普通のマグカップやTシャツは買いたくありません。なんかないかなぁなんておもいながら、孤児院の前の商店街を物色していたところ、良さそうなスツールがあったので、値切りまくった末に、なんと格安の1500円程度で購入しました。そう、一目ぼれしたわけでなく、何気なーく買ったのです。
スリランカのスツール
二度目のスリランカ
沢木耕太郎はその有名すぎる代表作、深夜特急で、「旅をなぞるな」と言っています。これはどういうことかというと、旅で出来た思い出に思い入れすぎて、また同じ場所に行きたくなることがあります。旅での思い出はその場限りのもので、もう一度同じ場所に行っても同じ思いが出来るわけではありません。これが、「旅をなぞるな」という意味です。
そして、私はこの掟に背いてしまったのです。
スリランカから帰ってきて2年ほど経ったとき、何気なく買ったスツールがどんどん、どんどん良い感じの色、触感になっており、超お気に入りになってしまったのです。それに1500円という超お買い得価格で買った椅子です。欲張りな私はもう3つくらい同じ椅子が欲しくなってしまったのです。キャンプの時に焚き火の前にこの椅子で座れたらなとか、レトロなトランクケースを低めの机としておいて、その周りをこの椅子で囲んだらいいだろうなとか考えていたら、どうしても一つでは満足できなくなってしまったわけです。
これがメインの理由ではありませんが、2年後に妻と一緒に再度スリランカに行くことになりました。当然、同じ椅子を探しましたが、全然見つかりません。象の孤児院にも行って見ましたが、変な絵が描いてあったり、装飾が凝っていたりで、私の持っているシンプルな椅子はなかったのです。
探しつかれたときに、これはただ旅をなぞっているのだ、旅で手に入れたものは何であれ同じものは手に入らないと言うことに気づきました。
これに気づいて以来、このスリランカのスツールは私の中でthe one and onlyになりました。同じ場所に行っても、1500円で買った椅子ですが、今はもう、いくら出しても手に入らない椅子になってしまったのです。
一生付き合いたい、育てていくスツール
思い出ばかり話してしまいましたが、この椅子の良さはその頑丈さとシンプルさにあります。剛健質実という私の好きな言葉がありますが、この椅子はまさにそれを体現したような佇まいです。
水牛の皮の部分を取り外せば、マホガニーの木が3本そろえることが出来、これを丸めれば持ち運ぶことも簡単です。
エイジング感も最高です。時を経るごとにそのモノの風合いが出てくることをエイジングといいますが、この分厚い水牛の皮は見事にエイジングしてくれています。たまに靴用の無色のオイルを入れていますが、その瑞々しさは失うどころか増す一方で、レザーマニアには垂涎ものです。
冒頭にどう付き合っていくかが大事だと書きましたが、このスツールは磨く楽しみもあるので、数年後のその表情の変化が楽しみです。
このスツールとは長く付き合って生きたいと思います。
さて、如何でしたでしょうか?買った当時に比べて、かなり良い色に仕上がってきました。この椅子はメンテナンスをしながら一生使い続けたい椅子です。(数年後、もっといい色になってアップできることを楽しみにしています。)